ビリー・ワイルダー監督・脚本の名作「アパートの鍵貸します(the apartment)」について、時代考察や感想などを述べている。
どんな部分が素晴らしい映画なのか?今の時代と比べるとどうなのか?などについて語っていく。
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アパートの鍵貸しますはどんな話?
「アパートの鍵貸します」のストーリーを大まかに説明する。
自分の部屋を、会社の上司が不倫するためのラブホテル代わりに使わせていたバクスター(ジャック・レモン)。
自分の好きなフラン(シャーリー・マクレーン)という女性と、シェルドレイク部長が付き合っていることを知り、自分にこの女性を手に入れることはできないと失望しながらも、最後はプライドを見せて、
バクスター「アパートの鍵はもう貸さねえ!会社なんか辞めてやる」
フラン「やっぱりバクスターにしよう!」
という話である。
アパートの鍵貸します!オープニングが最高
「アパートの鍵貸します」は始まり方も最高である。
従業員31,259名の大手保険会社。その19階の工場のような大部屋で働く勤続3年10ヶ月の数字に強いバクスター!というセリフで始まる。
このセリフを聴きながら、映像はまずニューヨークの広大な景色を見せて、次にドデカイ会社のビル、そして何百台もの机が並べられた大部屋で、メモや電話で仕事をするバクスターが映る。シーンのつなぎ方がカッコいい!
これから何がはじまるのかワクワクしてしまうオープニングである!
アパートの鍵貸しますは小道具の演出が最高!?
アパートの鍵貸しますは、監督・脚本のビリー・ワイルダーによる、小道具のイカした演出が最高に楽しめる映画である
割れた手鏡
部屋で割れた手鏡を見つけ、部屋を使っていたシェルドレイク部長に渡すバクスター。
しかし、自分の好きなフランというエレベーターガールがこの割れた手鏡を持っているのを見て、めちゃちゃ落ち込む。
割れた手鏡→割れたバクスターの心のようだ。
テニスラケット
バクスターはフランのためにパスタを茹でてあげるのだが、水切りの道具がなんとテニスラケット!
細かいことは気にせずに小気味よく料理するジャック・レモンに見入ってしまうシーン!男なら一度はやってみたいと思うだろう。
シャンパンの銃声
フランがバクスターのアパートへ向かうと、銃声が聞こえる!部屋に駆け込むフラン。
そこにはシャンパンを開けたバクスターがいた。どんだけ炭酸詰まってるシャンパンなんだよ!と突っ込みたくなるが、ハラハラした雰囲気が和やかなムードに急変する名シーン。
1960年代アメリカのレトロな雰囲気にどっぷり
従業員多すぎ
バクスターが勤める保険会社には従業員多すぎだし、エレベーターも何台もある。ビルの階数も、バクスターが働くのは19階!部長がいるのはなんと27階!目眩がしそうだ。
1950年代とか60年代のアメリカの保険会社は、一つの大型ビルに何千もの従業員が出勤するスタイルなのか?この会社歩いて回るの大変だろうな〜とか、今だったらこの労働環境許されないだろな〜とか、シミジミ考えてしまう。
会社で不倫しすぎ!
バクスターの上司4名はみんな会社の女性と不倫している。この時代は奥さんがいても会社の女性と付き合うとか普通なのか?と思ってしまう。おまけに男性上司が、エレベーターガールのお尻をパンと叩いて笑っているシーンもある。今だったら絶対にセクハラで訴えられるだろう。
それだけ男性が、不倫やセクハラを好き放題やっていた時代なのかもしれない。
ラブホテルなんかねえ!
不倫はしたい!だけどラブホなんかねえ!ということで、みんなバクスターの部屋を借りる。この時代に不倫をする人は場所がなくて大変だったんだろうなと考えてしまう。友達の家とかを借りているケースもあったのだろう。もしかするとビリー・ワイルダー監督も、そういうことに巻き込まれた経験があったりして!もしかして実体験!?
優しいバクスター?シェルドレイク?
アパートの鍵貸しますでは、いい男とは何か?という強烈な問いかけをしている。
自分に優しくしてくれるバクスター?それとも社会的地位が高いシェルドレイク?
バクスターは優しくてユーモアがあるが、恋敵であるはずの部長にペコペコしてしまう非常に男として情けない一面もある。そして、大好きなフランのの幸せばかりを考えて部長との復縁を応援し、自分は踏み込まない。
一方で、シェルドレイクは自分のことしか考えておらず、今まで会社の何名もの女性と不倫を繰り返している。そして、フランが自分のせいで自殺未遂を起こしても、どうでもよいと考える。
バクスターもシェルドレイクも、女性への接し方については、めちゃくちゃ極端な男として描かれている。あなたはどちらを選ぶだろうか?(まさに究極の選択!)
個人的かつ客観的に考えれば、2019年の日本女性はバクスターを選ばないのではないかと思う。金銭面でも魅力がないし、とりわけカッコいいわけでもない。おまけに好きなフランの自殺未遂の原因である部長にペコペコ。男らしさのカケラもない。
最後にフランがバクスターを選んだラストについて、1960年ごろは、今でいう男らしくない男性でも恋をすることができたのか?
そう考えると時代の流れというのはとても面白い!
心を貸していたバクスターがプライドを取り戻す物語
アパートの鍵貸しますは、バクスターがプライドを取り戻す物語だと感じた。
不倫のために自分の部屋を貸すことで、心まで貸していたのだ。バクスターは今まで心をなくしていたといえるだろう。
物語中ずっとノーソウル状態だったバクスターは、最後に部長にノーと言い、会社を辞める。彼はこのとき初めて男としてのプライドを手に入れ、フランの心も手に入れた。
アパートの鍵貸しますで、切ない男と1960年代のレトロな雰囲気に心を委ねてみて、いろいろな思いが去来した。