鬼才デヴィッド・リンチ監督のロスト・ハイウェイという映画について解説する。
難解と言われる映画だが、マルホランド・ドライブやインランド ・エンパイア、ツインピークス・ザ・リターンなどに比べればさほど難しくはない。リンチ映画でいうと中級くらいの難易度だろうか。
「意味わからん!」ともいわれるが、謎や構造を紐解いて行くと、案外簡単に理解できる。
あらすじ説明、フレッドとピートなど登場人物の関係性から説明し、イラストを踏まえた独自考察、難解で芸術的な理由などを解説。
ロスト・ハイウェイについての理解が深まること間違いなし!
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ロストハイウェイのあらすじ概要
妻レネエと暮らすジャズ・ミュージシャンのフレッド。家のインターフォンが鳴り「ディック・ロラントは死んだ」という声が聞こえる。フレッドは震えた。
家の外にビデオテープが置かれており、フレッドの家や、寝ているところが映されていた。警察に捜査を依頼するが詳細は不明。
ピートはレネエの知り合いアンディの自宅でのパーティーで、いつも自分の家にいるという謎の男に遭遇。次の日もビデオテープが。フレッドが観てみると、自分が妻レネエを寝室で惨殺する姿が映されていた。フレッドは死刑を宣告され、牢獄へ。激しい頭痛の中、燃える建物が小屋に戻って行く情景をみる。
次の日、刑務官が牢獄をのぞくと、フレッドがいるはずの牢獄にピートといる青年がいた。ピートは両親の元に帰されるが、両親やガールフレンドは、ピートがある男と失踪した、あの夜のことを話そうとしない。ピートは自動車修理工として復帰。自動車整備のためにきたマフィアのミスターエディ(ディック・ロラント)と一緒に乗っていた、アリスという女性と恋に落ちる。ディックはピートに電話を掛け、謎の男に電話を変わる。謎の男はピートを脅した。
アリスは知り合いのアンディの家に行きピートをこっそり呼ぶ。ピートはアンディを殴るが、飛びかかってきたアンディはガラスのテーブルで頭が割れて死んでしまう。大スクリーンにはアリスのポルノが流れていた。ピートとアリスはアンディの貴重品を取り、ある小屋へ品物を売りに行く。アリスはピートと愛を交わしたあと、「あなたは私の何も手にしていない」と言い残し、裸のまま小屋の中へ消える。
残されたピートはフレッドになっていた。小屋の中からビデオカメラを持った謎の男が現れ、フレッドは逃げる。ロスト・ハイウェイホテルで浮気をしていたディックと妻レネエを見つけ、フレッドは謎の男と共にディックを射殺。フレッドは自分の家へ行き、インターフォンを押し「ディック・ロラントは死んだ」と言った。家を見張っていた警察がフレッドを見つけ、フレッドは車に乗り、猛スピードで逃げる。
フレッドは砂漠で何台ものパトカーに追いかけられている。叫びながら、彼の頭が高速で揺さぶられる。
ロストハイウェイの登場人物
フレッド・マディソン
ジャズ・ミュージシャン(テナーサックス奏者)
レネエ・マディソン
フレッドの妻。
ピート
自動車修理工の青年。あの夜の後、なぜかフレッドの独房にいた。アリスに一目惚れ。
シェイラ
ピートのガールフレンド。ピートがあの夜、おかしかったのを見ている。
アリス
レネエの金髪バージョン。娼婦でディックの恋人。ピートと恋に落ちる。
謎の男(ミステリアスマン)
顔が白い不気味な男。アンディの家でフレッドに会う。ディック・ロラントの友達。
ディック・ロラント
マフィア。通称ミスター・エディ。あおり運転が大嫌い。
アンディ
レネエの友達。アリスにポルノの仕事を紹介。
ロスト・ハイウェイ登場人物の関係解説
ロスト・ハイウェイは、デヴィッド・リンチ監督自身が、O・J・シンプソン事件を元にしていると発言していることから、罪を犯した人間の精神構造をストーリー化しているとわかる。
ピート=フレッド
ピートはフレッドの刑務所での抑圧意識の投影で、彼の行動は実際には起こっていない。
人格解離者を元にした映画なので、
フレッドの抑圧された意識がピートであり、彼の行動自体が、フレッドが犯した罪の投影と考えるのが自然だろう。
ミステリアスマンは真実を知るフレッドの心の一部
フレッドの家にいるといっていたので、ミステリアスマン=フレッドだろう。
ビデオカメラを持ってレネエを殺したフレッドを映していたことから、ミステリアスマンは真実を知る人物であり、ピートを作り出したのも彼だろう。
フレッド⇄ミステリアスマン⇄ピートという関係性になっている。
アリス=レネエ
アリスはフレッドの抑圧された意識であるピート編で出てくるので、フレッドがレネエに対して抱いた憎悪が意識のうちに脳内変換されたものだとわかる。
ロスト・ハイウェイを図解解説
まず、ロストハイウェイをわかりやすく説明できる解説図を作ってみたので、よく見てほしい!
図は以下のように、シーン別のパターンで分けて作ってある。
- 燃えた後に逆再生された小屋を中心に、フレッド編とピート編で分けている。
- 数字はフレッドの(意識の中の)時系列。
ロストハイウェイの映画自体は、3のインターフォンからスタートしている。
上手い具合に捻れたメビウス構造になるところが面白い。
ロスト・ハイウェイの独自考察
ロスト・ハイウェイのシーンをまとめたイラストをみると、色んなものが見えてくるし、デヴィッド・リンチ監督の次作であるマルホランド・ドライブの構造と重なることもわかる。(マルホランド・ドライブ図解)
そういったことから、ロスト・ハイウェイを考察するといろいろなことがわかる!
ロスト・ハイウェイはフレッドが電気椅子で死ぬ間際の夢
ピートに変身し、フレッドに戻ってディックを殺し、ハイウェイへ逃亡するまでは、電気椅子でフレッドが死ぬ間際の夢だと考えられる。
ラストで、フレッドが車を走らせながら、頭がブレブレになって叫んでいる描写があるので、現実でのフレッドは、そこで電気椅子を食らってビリビリと死んでいるのだろう。
青い雷(カミナリ)は、電気イスでフレッドが処刑されている時の電気を表しているのだと思う(そう考えるとゾッとする)
ちなみに、映画冒頭のフレッド編は、現実+フレッドの妄想だろう。(ビデオテープのくだりは、無意識化でビデオを撮っていたのかフレッドの妄想なのか判別不可能だし、その必要もないだろう)
ピートはあの夜、レネエを殺しに行ってた
青い雷の中ピートが恋人のシェイラに「行かないで〜」と呼び止められていた。ピートの両親の話によると、見たことがない男と一緒にいたという。ピートはそのあとフレッドの独房で発見されるのだが、”あの夜”何をしていたのだろうか?
自分なりの答えをいってしまえば、レネエ(もしくはそれに変わる者)を殺しに行ってたのだと思う。
理由の一つ目は、フレッドは、レネエを自分で殺したことを認めることができないが、罪の意識に苛まれ、ピートが殺したということにするのは自然な願望だということ。
理由の二つ目は、ロスト・ハイウェイで殺される描写がある人物は、レネエ、ディック、アンディの3名であるが、”あの夜”の時点でディックやアンディを動機もなくピートが殺すのは不自然だということ。
レネエに関しても、ピートが殺す動機はないが、フレッドがピートへ変身した直後なので、思考が重なる部分があったのだろう。
レネエはそのあとアリスとして登場するじゃん!と思うかもしれない。しかし、こう考えてはどうだろうか?
フレッドは自身の意識がピートに分離しただけでなく、意識の中で妻すらも、憎しみの対象レネエと、愛の対象アリスへ分離させたのだ
フレッドは憎んだレネエを殺し、愛の対象であったアリスまで失った悲しい人物なのだ。
ロスト・ハイウェイを難解・芸術的にしているもの
観る者の時系列を狂わす
マルホランド・ドライブやインランド・エンパイアを観ている人ならわかると思うが、デヴィッド・リンチ監督は、登場人物の出来事を時系列でバラバラにし、映画の流れにしている。ロスト・ハイウェイでもわかりやすくその手法が使われている。デヴィッド・リンチは、時系列を変えることを、非常に論理的かつ効果的におこなっている。
もしも、ロスト・ハイウェイが、ディックを殺して(もしくは浮気を発見するだけかもしれない)、妻を殺して、刑務所に行き、脳内トリップしてピートになったという流れだったら、もっと理解はしやすかっただろう。
フレッドの時系列でいえば前半のディックを殺したという部分を、映画では後半に持ってきたから難しくみえる。
フレッドが妻を殺した理由を謎にすることができ、かつ物語も難解で芸術的になっているのだ。
フレッドとピートの物語で綺麗に分けていない
フレッドの物語で始まり、ピートの物語で終われば、もっとわかりやすいが、フレッドがまたピートに戻る。
つまりロスト・ハイウェイのストーリーを正確に考えると、観ている側には、現実のフレッド→妄想のピート→妄想(回想)のフレッドという3部構成になっているのだ。
人格は2人なのに、3つの状態に分けられているから、余計混乱するのだ。
現実か妄想かわからない
もっと突き詰めていくと、第一部のフレッドの現実部分がどこまで現実かもわからない。
フレッドがレネエに対して憎しみを抱いていたことは事実だろうが、
- ディックが本当に死んでいるか?
- ビデオテープが本当にあったのか?
- 妻が浮気をしていたのか?
などは現実かどうかわからない。
頭が正常な人が狂っていくというストーリーなら分かりやすいが、ロスト・ハイウェイは頭がおかしくなっている人が、完全に壊れていく物語なのだ!
最初から頭が壊れている人間をみせ、刑務所でさらに脳内トリップを見せている。
これも、ロスト・ハイウェイが難しくてアーティスティックに仕上がっている理由だろう。
ロスト・ハイウェイはわかりやすく論理的
ロスト・ハイウェイの解説図や考察をみれば、ロスト・ハイウェイという映画が非常に論理的に作られており、全てのシーンに意味がある作品だとわかっただろう。
ロスト・ハイウェイは、抑圧された精神構造が死ぬ直前にどうなるか?ということをテーマにしている。
妻を殺したフレッドが、事実を受け止めきれず意識を乖離させてしまった物語であり、乖離したピートのストーリーも映像化している斬新な作品なのだ。
デヴィッド・リンチの作品はよく「答えがない」と言われているが、実は常に明確な意味や、確立したテーマがあるのだ。
ロスト・ハイウェイについて、説明はできないという言葉で逃げて、ストーリーや大きなテーマまで見逃しているような映画批評サイトが非常に多いのはとても残念なことだ。